第四章
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例の「玄武の像」の部屋の壁には、他の展示室同様ガラスが張られ、中に展示品が飾られていた。
置かれている物は、土がついたお守りや鏡、石英。またちょっと変わったところでは、宝石のついた弓や矢じりなど。結の好きそうなものばかりである。
パンフに照らし合わせながら、今度は鷹辻たちが説明をしてくれた。これには嘘は無いだろう。
……いや、直人の説明には誇張がありそうなものばかりだったが。
ぐるりと部屋を一周するように壁に沿ってみていると、結が何やら見つけタタタッと駆け寄っていった。
「ねぇ、これすごく綺麗!」
「へ? なんだよ?」
言われて指差す方向に目を向けると、そこには二つの勾玉が並んで置かれていた。くすんだ青の色だったが、確かに綺麗である。
「ああ、これが例の勾玉ですか」
「土ん中あった割には、結構綺麗な色してるんだな」
後ろから覗き込んだ鷹辻と直人が、感心したような声を上げる。
「例の、ってどういう意味ですか?」
肩越しに問う結だが、反応したのは優だった。
「さっきミイラの話をしたじゃないか。戦国武将のミイラの話」
「………………うん、覚えてる」
物凄く嫌そうに頷く結。話の続きを引き継いだのは鷹辻だ。
「そのミイラが握り締めていた、というのがこの勾玉なんですよ。ミイラになる原因、とも考えられたんですけど、特に特殊なところは無かったそうでして、ここに飾られることになったそうですよ」
「俺達は、そのミイラの事件に興味をもってな。事件を扱っていたチャットで知り合ったってわけだ」
直人の説明にふむふむと頷く高校生三人組。だが、ふと、結が動きを止めた。
「………………あの、ってことは、これってミイラと一緒のものだったんですか?」
「はい、そうですよ。一緒に発掘されたそうです」
「……………………………………」
急に無言になった結は、すかさず隣の司にへばりつく。
「お! おい結! 離れろって!」
「だ、だだって、ミイラとミイラとミイラと」
「う~ん、結ちゃん、こういう話苦手だからねえ」
赤くなって軽くパニックな司の横で、のほほ~んと優が状況説明をする。納得がいった大学生組。
「そうなんですか。すみません藍原さん。怖い話になってしまいましたね」
「ほら、そんな男に引っ付いてないで。俺みたいなほう応力のある男のところにおいで~」
「って、どさくさにまぎれてナに言ってやがる!」
勾玉を覗き込むようにしながらも、ギャイギャイと話を弾ませる五人。
そのせいか、天井近くを這い回る陰には気が付いていなかった。
『あった……。ここだ……』
「――――っ!!」
バッと背後を見やる司。思いも寄らない行動に、いまだに張り付いていた結が首をかしげた。
「どうしたの? 司?」
「今、何か聞こえた気がして……」
「何が聞こえたって?」
直人が茶化すように尋ねる。だが、司はそれに答えない。いや、答える余裕が無い。
その次の瞬間。
『―――――――見つけた!!』
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリッッッ!!!!
けたたましいほどの警報が鳴り響き始めた! 全員が慌てて自分の耳をふさぐ。
「うわ、なんだぁ!?」
「火事……かな」
「か、かかか火事?!」
「それって、やばいんじゃねぇのか?!」
「とにかく、外に出ましょう。ここから離れなければ」
鷹辻に促され走ろうとした途端、今度はスプリンクラーが作動した。
バシャ~~~~~~~~~~~~~~
「きゃあ! 冷たい!」
「な、なんでスプリンクラーが?! ここに火なんて無いぜ?!」
「いいから司! 早く外へ!」
「お、おう!」
見ると、わたわたしていた自分たち以外は、もう外に廊下から逃げているようである。
それに続こうとした……が、
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリッッッ!!!!
一際高くなった警報。それと共に、防火シャッターがすばやい勢いで落ちた!
「え?」
「うそ」
「マジかよ!」
慌てて反対側に行くが、こちらも先程と同じ勢いでシャッターが落ちる。
前後の道を封鎖されて、思わず顔を見合わせる五人。
狂ったように水を降り注ぐスプリンクラーと、相変わらず高い音を発する警報。
五人はその中に閉じ込められてしまったのだった。
2004.11.11
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